連載・特集

2021.11.21 みすず野

 現代人はおそらく、有史以来最も手紙を書いている。紙やペンは使わないが、携帯電話、スマホでメールを送っている。これを郵便に置き換えたら一人一日何通になるだろう▼昭和16(1941)年に南洋パラオ島に赴いた作家・中島敦が、8歳の息子に送った絵入りはがきは、小さな船を30匹ほどのイルカが取り巻いて泳ぐ様子を書いて「ぼくから10メートルくらいはなれたところで三匹そろって一どにとびました。いるかはとてもふざけんぼですよ」(江國滋選『手紙読本』)と結ぶ。選者はいう「こういう手紙を、親からもらえる子供は、世界一幸福な子供である」と▼年賀欠礼のはがきが届く時期。年頭には年賀状は今年限り、という便りが何通かあった。年々増えている気がする。費用の面では確かにメールの方がはるかに安い。若い世代にとって、はがき、手紙は選択肢にないのかもしれない▼『剣客商売』などを著した池波正太郎は、随分早いうちから年賀状の宛名を書き始めたという。それだけ多くの枚数だったのだろう。数は少なく、気の利いた絵も描けず、墨痕鮮やかな筆文字も縁がないが、今年も年賀はがきを投函する。

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