連載・特集

2021.10.13みすず野

 乃木坂に欅坂、日向坂。アイドルグループの名に「坂」が付く。大抵のおじさんはメンバーを見分けられない。坂道にはどこか詩情が漂い、函館や尾道、長崎...海を望む観光ポスターの写真が旅へといざなう◆東京の街も坂が多い。江戸時代からの名が今に伝わる。大久保利通の遭難事件で知られる紀尾井坂は近くに紀伊・尾張・彦根(井伊)藩の屋敷があった。漱石の『三四郎』にも出てくる千駄木の団子坂は明治期まで、菊人形を見物する人でにぎわった。岡本綺堂の『半七捕物帳』に〈坂の中途に団子屋が〉とある◆松本平や安曇平と呼ばれる当地で「坂」と聞いてぱっと思い付くのは、刑場へ引かれる多田加助が妻と別れた泣坂やそれに続く養老坂、浅間の湯坂くらいか。とはいえ扇状地だから土地全体がなだらかな坂なのだ。国体道路やこまくさ通りを自転車の高校生が立ちこぎで上って行く◆秋が深まる。二十四節気を3等分した七十二候はきょうから―菊の花開く―。あす14日は旧暦9月9日で重陽・菊の節句。歩きも自転車も(人生も)上り坂は大変だけれど、その先の下り坂を楽しみに。そして下りはゆっくり、ゆっくり。