連載・特集

2021.10.10みすず野

 小社塩尻支社は、塩尻市の大門並木町にある。レザンホールや市役所に歩いて行ける範囲にあり市街地といえるが、この季節、暗くなるころになるとコオロギの軽やかな鳴き声がどこからともなく聞こえてくる。途切れることなく、かといって真夏のセミの大音量でもないほどよい声がそれが基調であるかのように続く▼「欧米人がホタルの光に感慨を催すかどうか、鳴く虫の声を賞でるかどうか、そんなことを調べてみても、ごくわずかの例外的な知見を得るのみなのである」(奥本大三郎『虫のゐどころ』)。30年かけて『ファーブル昆虫記』(10巻・20冊)の個人完訳を成し遂げたフランス文学者が語る▼イギリスにはセミがほとんどいない。フランス南部にはセミがいるがその鳴き声は騒音扱い。アメリカにもいて定期的に大発生するが、樹木の害虫として嫌われるばかりだとか▼日本では平安時代から、虫を捕らえてかごに入れ、その声を楽しむことが行われてきたという。殿上人が虫の声に耳を傾けたように、支社でもコロコロ鳴く声に優雅な気分で親しみたい。でも、そのころには、あいにく記事の締め切り時間がやってくる。