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第2部⑧目指せ世界遺産登録 松本城の価値次代につなぐ

世界遺産登録を目指す松本城。機運醸成を図る中で、市民の意識を高めることが未来へ引き継ぐ鍵となる

 「世界遺産には、なって当然と思っている」。松本古城会事務局の上條喜和子さん(69)は、「お城」への思いを誇らしげに話す。
 国宝松本城(松本市)は明治期以降、市川量造(1844~1908)、小林有也(1855~1914)を筆頭に住民の手で守られてきた歴史がある。その精神を色濃く引き継いでいるのが、結成55年を迎える奉仕団体・松本古城会だ。

 年中行事の運営補助や市民を交えた天守の床磨きに長年取り組んできた。上條さんは「お城は自分の宝」と並々ならぬ愛着をにじませる会員が大勢いると笑い、「(住民ではなく)行政によって残されたなら、市のものであって私たちのものではなかった」と断言する。
 市民の宝を確実に後世につなぐため、世界遺産登録を目指す運動が始まったのは20年前にさかのぼる。官民連携組織「『国宝松本城を世界遺産に』推進実行委員会」が発足し、国連教育科学文化機関(ユネスコ)への推薦候補を掲載する国内暫定リスト入りを当面の目標に、調査研究を重ねてきた。
 長く追加記載のなかった暫定リストを巡っては今年、文化庁が14年ぶりとなる見直しの方針を示した。滞っていた状況が大きく好転する可能性が開け、市は「松本城の日」の制定を企画するなど機運醸成を強める。市民の前向きな意識は、世界遺産登録への調査でも重視され、登録を後押しする力となるからだ。
 松本城はまちなかの平城で、季節ごとに催しが開かれるなど市民が愛着を感じやすい環境にある。「身近すぎて『国宝』と言われてもピンとこないが、観光客が集まる様子は誇らしい」「松本のシンボル」と好意的な声は多い。一方で、日常に溶け込んでいるために「あって当たり前」の存在となり、20年間の運動があっても、機運が大きな盛り上がりを見せるまでには至っていない。
 古城会事務局長の丸山貞寿さん(76)は「ここに住む誇りを持てるような教育が大切」と実感する。自身は松本市が進めている外堀復元事業などのため経営していた老舗ホテルを廃業し、住居も移した。周辺建物の高さ規制などを例に、個人の損得を超える松本城の普遍的な価値を次世代にも感じてほしいと願う。子供の参加も多い天守の床磨きなどはその一端を担うものだ。
 推進実行委の事務局を置く市文化振興課の石川善啓課長は「守ろうとしなければ残っていかない。世界遺産はゴールではない」と力を込める。市民の意識を一段押し上げ、より積極的な発信や保全へと踏み込めるようになれるかどうか。世界遺産を目指す過程こそ、その大きなチャンスとなる。