連載・特集

2021.9.19みすず野

 知人とはいえなくても、面識があったり一方的に存じ上げたりしている人が、書籍やテレビなどに名前が挙がり、姿が映ると思わず文字を追い、見入る。ずいぶん昔に会ったきり、全く忘れていた人だとなおさらだ。昨年刊行された『つげ義春日記』(講談社文芸文庫)に、大学生の当時在籍していた同好会の先輩が営んでいた古書店の名前があった▼先輩にアルバイトを頼まれ、古書組合へ落札した本を運ぶ手伝いに行ったこともある。古い漫画が注目を集めていたころで、どこかにそんな掘り出し物はないかと聞かれ、実家近くの古書店を教えた▼先輩は、知遇を得ていた漫画家のつげさんとともに遠路店を訪れ、つげさんも昭和30年代の貸本漫画など大量の本を購入したと聞かされた。その後も直筆画を買うなど、つげさんとの付き合いは続いていたようで、雑誌で先輩の文章を読んだこともあった▼『―日記』は昭和50(1975)年から55年まで、屋号だけで先輩の名前は出てこないが、あまり好意的には書かれていないように読める。古書店は閉めたと聞いた。店を紹介したお礼にもらったつげさんの署名入りの本が本棚にある。