連載・特集

2021.9.12 みすず野

 紙面に載る記事の表記に誤りがないよう、出稿段階で何度も文章を確認する。記者経験の長さに関係なく、誰もが同じように文字と向き合う。編集担当者は手元に届いた記事を、一語一語点検して紙面作りをする。それでも誤りは避けられず「訂正」という文字を配さなければならない日がある▼塩尻市北小野に立つ古田晁記念館は、地元出身で筑摩書房を創業した古田宛や古田自身の書簡、原稿などを展示している。筑摩書房は昭和15(1940)年に誕生した。展示されている創業のあいさつ状は、旧制松本中学(現松本深志高)の同級生だった臼井吉見が長文をしたためた。末尾は「筑摩書房 吉田晁」となっている▼『筑摩書房の三十年 1940―1970』(和田芳恵著)によると、古田はこの誤りに気づかず各方面へ郵送した。自身が一人で印刷所にかけ合い校正刷りにも目を通したが自分の名前を間違えた▼著者は「古田晁は、自分を自分で粗末にあつかうようなところがあり、また、含羞の人である。この二つが、相互に複雑にはたらいて」誤ったのではと推測する。記事も人名の誤りは許されない。思わず襟をただす。