連載・特集

2021.8.7みすず野

 木漏れ日の差す尾根道が猛暑を忘れさせてくれる。霧訪山(1305メートル)の名は以前から紙面で見て、気になっていた。先月アジサイ見物で塩尻市上西条の常光寺を訪ねた際、登り口への標識を見つけていたのだ◆朝から晴天でも曇りがちの日が多い夏の盛りに登る人は少ないのだろう。誰とも会わなかった。取り付きのつづら折りから男坂まで、ふうふうと荒い息で一気に登り切る。「ブナの別れ」の道しるべはまるできのう設置したかのように新しかった。記事にあった通り、地元の人たちに愛されてきた山だと分かる◆山頂の眺望はぐるり360度。円形図盤に北・南・中央アルプスや八ケ岳連峰のほか遠く妙高、高妻の山名も読める。雪で白くなる頃にまた来よう。カワラナデシコ(にしては少し赤紫が濃い)やハギの花が秋の気配を思わせた。「夢かなう霧訪の鐘」を鳴らして下山へ◆暦に立つ秋は早い―。作家・幸田文の随筆に見える言い回しである。春も夏も冬も季節を1カ月ほど先取りして「立つ」のだが、立秋はとりわけ実感から遠い。きょうを境に変わるのは暑中から残暑への時候のあいさつだけ。下界はまだまだ暑い。