連載・特集

2021.7.6 みすず野

 「石をもて追はるるごとく/ふるさとを出でしかなしみ/消ゆる時なし」。一家離散の憂き目に遭い、故郷の岩手・渋民村(当時)を追われた石川啄木は、二度と渋民を訪れることはなかったが、こうも詠んでいる◆「ふるさとの山に向ひて/言ふことなし/ふるさとの山はありがたきかな」。啄木の故郷に対する屈折した心情は置くとして、「ふるさとの山に向ひて―」の歌には共感を抱く。実際松本平からの山は言うことなしで、梅雨の合間に姿を見せる、北アルプスの美しいこと。幸いその山々の名前を白馬三山まで、口に出して言うことができる◆なのに、生家から遙か眺められる南アルプスのうち、塩見岳より南(赤石岳ほか)がわからない。また長野に行った折、「北信五岳」と言われる五つの山(戸隠、妙高、飯縄山など)に接するが、どれなのか見当がつかない。山と名前が一致しない、名前自体を知らない、のである◆フォト信州(松本市)の佐々木信一代表が、信州各地の絶景ポイントから撮影したパノラマ写真に、山の名前を落とし込んだ新刊『山並み大図鑑』が好評。持ち歩いて、機会ある度確かめてみようと思う。