連載・特集

2021.6.18みすず野

 「歌謡曲の時代」が、確かにあった。いまから半世紀以上前の昭和40年代から50年代にかけてが全盛期で、昭和の終幕とともにそれは終わったようである。家々の茶の間にテレビが置かれ、歌番組が登場し、家族みんなで見て、歌詞を自然に覚え、口ずさんだあの時代だ◆「歌は世につれ―」と言われるが、歌謡曲にはやはり時代背景がある。はやるには当時の人々の心情に強く訴えるものがなければならず、思い出すとそれがあった。短い歌詞にもかかわらず一つの物語が描かれているのも、大きな特長だった◆逆に言うと、平成以降の歌には時代背景や物語がなく、作者が自分だけの心情を、延々歌っている感じがする。いわゆる「ご当地ソング」の歌謡曲にも、何と多くの名曲が存在することか。「襟裳岬」「北の旅人」「津軽海峡・冬景色」「みちのくひとり旅」「矢切の渡し」「天城越え」「瀬戸の花嫁」「長崎は今日も雨だった」◆思いつくまま挙げてみた。信州だと「千曲川」。作詞の山口洋子は藤村の詩を下敷きに書き上げ、それまで実際の千曲川を見ていなかった。いまは戸倉上山田温泉の万葉公園に歌碑が建っている。