連載・特集

2021.5.9みすず野

 松本測候所が14年前まで行っていた生物季節観測で、カッコウの初鳴きが最も早かったのは昭和32年と平成2年の5月9日。最晩が6月6日だから大体この1カ月のうちに渡って来る。愛鳥家が耳を澄ませているだろう◆古くから文芸や音楽にうたい込まれてきた。一番のなじみは、セロ弾きのゴーシュにドレミファを教わった(教えた)カッコウか。あるいは「静かな湖畔」など軽快な調べの外国民謡か。閑古鳥とも。芭蕉が得た〈うき我をさびしがらせよかんこ鳥〉の句境をはじめ、先祖はあの声に寂しさを覚えたらしい◆万葉歌人の山部赤人が春日野で片恋の切なさを詠んだ長歌(巻第三372)に出てくる〈かほ鳥〉も、一説にカッコウとか。柳田國男は「野鳥雑記」で、きこりが山の中でわが子を探し回ってカッコウになった―などの伝承を挙げ〈親を慕い、子を懐わしめる鳥であった〉◆松本に住むまで聞いたことがなかった。もっとも声の主が本物のカッコウとは知らず、街の信号機の音声が風に乗って届いているのだと思っていた。響き渡るこだまのような鳴き声は信州の爽やかな新緑によく合う。初夏の便りが待ち遠しい。