連載・特集

2021.5.12みすず野

 先週のゴールデンウイークとその延長の週末、案の定、北アルプスなどでの登山者の遭難事故が起きた。春山と言っても、風雪は冬山同様である。まれに軽装で登って行って動けなくなり、助けを求める人がいるけれど、山はまさに大自然、常に険しく、厳しい◆「人はなぜ山に登るのか」の哲学的な問いはさておき、古今東西、人はそこにある山に分け入り、登り、祈り、ルートを切り開いてきた。岳人のみならず、文人もかつてはよく登り、小説、詩、エッセーなどに残した。山と対峙することで、自己再生を期し、創作意欲をかき立てたのだ◆高村光太郎もその一人。光太郎は東京生まれで、彫刻家を志し、ニューヨーク、ロンドン、パリに留学するなど、極めて都会的、先進的な若者だったにもかからわず、心に屈託を抱え、73年の生涯で3度、山に向かい、自分を見つめ、生きる力を得た。最初はかの智恵子を知った後の上高地滞在である◆次は智恵子が発症してからの東北めぐり。そして最後は敗戦後、戦争責任を痛感しての岩手・花巻郊外の山小屋独居生活。これは晩年の7年に及んだ。人と山を考える一つの典型がここに。