連載・特集

2021.5.10 みすず野

 北アルプスの山並みが、遠く白馬三山まで眺められる日、これらの山の頂に一つ二つ三つと立った若い日、壮年の日を思い出す。そして頂で汗をぬぐいながら、しばし憩いの時間を過ごした、あの充足感がよみがえる◆もう登らない、登れない山々だが、だからこそいまになって心を富ませてくれる。こうした思いは、生きてゆくうえでとても大切だ。人生は楽しいことばかりではなく、むしろつらいこと、苦しいことのほうが多い。仕事に就き、組織に組み込まれると、その論理に従わざるを得ず、家庭を持てば、家庭を守るためいっそう忍耐を強いられる◆35年、40年、いまはもっと長い歳月、多くの人は勤め続け、老いる。そんななか、心を富ませてくれる何か、至福の時間を幾度か持てた人は、幸いだと思う。余力を残して仕事に幕を下ろせる(下ろせた)人は、もっと幸いではないか。その場合、やりたいことがある、好きなことがある、が大前提。老後は自分が本当に好きなことをするに尽きる◆好きなことを現役時代に見つけておくのである。おカネや物はそこそこあればよく、心を自由に羽ばたかせて、好きなことをやろう。