連載・特集

2021.4.28 みすず野

 駅、もしくは鉄道で思い浮かべる文学作品と言えば、何だろう。むろん人それぞれだが、「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった」の書き出しが有名な、川端康成の『雪国』か。はたまた漱石の『草枕』『三四郎』◆いや、松本清張でしょう、清張は挙げ出したら切りがない。『点と線』『砂の器』がその代表だと。三浦哲郎の『忍ぶ川』三浦綾子の『塩狩峠』も。『忍ぶ川』は、現在の安曇野市出身の熊井啓が、加藤剛、栗原小卷さん主演で映画化し、原作をしのいだ◆映画つながりで言えば、浅田次郎さんの『鉄道員』は、松本市出身の降旗康男が高倉健主演で撮り、印象深い作品に仕上げた。そんななか、森村誠一さんの推理小説『駅』の古い文庫が手に入って、読んで驚いたのは、いまから40年近く前の昭和50年代の新宿駅と特急あずさ、松本と山形村が主舞台となっていることだった◆興味深いのは書いた動機。通勤時代、新宿駅で乗り換えていた森村さんは、松本に向かう岳人や観光客が向かいのホームにいる姿を見て、職場放棄し、旅に出たい衝動に毎朝かられたという。巨大駅の日常と非日常性を描きたかったそうだ。