連載・特集

2021.4.17みすず野

 絵本『王さまと九人のきょうだい』は子供心に痛快だった。顔も体つきもそっくりの9人がそれぞれ得意を生かし、悪巧みをはね返す。「ぶってくれ」はこん棒で打たれても涼しい顔だし、崖から突き飛ばされた「ながすね」の脚は谷底まで伸びる◆赤羽末吉の画業に生誕111年展(安曇野ちひろ美術館、5月30日まで)で触れた。絵本を描こうと決めたのは47歳の時という。デビュー作『かさじぞう』をはじめ数々の民話や、教科書に載った『スーホの白い馬』などで知られる。80冊余りを手掛けて80歳で亡くなった◆驚いたのは表現の多彩さだ。モンゴルの草原の広さや、日本の風土の美しさを伝えたい。子供たちを心底笑わせよう。そんな思いが会場いっぱいにあふれる。作品に添えられた本人の文も味があっていい。〈大衆性と格調の高さ〉の両立とか〈主題をどう生かすか〉とか。画のことはよく分からないが、説得力があると思った◆年譜によると、満州から引き揚げ後に3人の子供を相次ぎ亡くしている。悲しみが絵に〈深さ、やさしさ〉をもたらしたのだろうか。コロナ下で気詰まりな心を癒やしてくれるひとときだった。