連載・特集

2021.2.27みすず野

 岐阜県海津市にある治水神社の紋は丸に十の字。薩摩藩の家老・平田靱負を祭神にまつる。木曽三川がたびたび水害をもたらす濃尾平野で江戸中期の宝暦4(1754)年から翌年にかけ、同藩が幕命で担わされた治水工事は歴史に名高い◆くわ入れ式は2月27日に行われた―とネット上の記述を見逃していたら、手に取る機会はなかったかもしれない。宝暦治水に材を取った杉本苑子さんの『孤愁の岸』は59年前の直木賞作。人や本との出合いはつくづく不思議だ◆膨らむ工費は国元の庶民の暮らしをも直撃した。普請場では幕吏や庄屋とのいさかいに加え、疫病や容赦ない大水の猛威が藩士たちを苦しめる。人命も多く失われた。小説だからと言われれば身もふたもないけれど、権力や困難に立ち向かう靱負らの姿が現代の世情と重なる。時を超え、読者の目頭を熱くさせるのは作家の筆と文学の力だろう◆小紙木曽支局の前を流れる木曽川は石伝いに跳び渡れそうなくらい幅が狭いが、河口のそばへ行くと長さ1キロ近い橋が架かる。下流域の歴史に上流から思いをはせた。木曽の川ではあさって釣り人が"正月"と呼ぶ解禁日を迎える。

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