連載・特集

2020.11.7みすず野

 新そばになりました―の貼り紙がうれしい。亡き恩師は緑町のそば屋で決まって「もり3枚」と注文した。品書きは2枚分の値段しか載せていないので、常連ならではの頼み方だ。まずは薬味を入れずに―と食べ方にもうるさかった◆戦後に役所勤めをした「鬼平犯科帳」の池波正太郎は昭和25年ころ、弁当を持たずに出勤できるようになった。外でそばを食べられたからだ。〈日本はかならず復興する〉と心強く思った。戦国時代が終わって江戸の太平の世になり〈先ず外食の先頭に立ったのも蕎麦だった〉と『むかしの味』に書いている◆もしも新型コロナウイルスの感染拡大がなかったら、この週末は穂高神社の境内で新そばと食の感謝祭だった。松本城公園が会場のそば祭りは台風で中止の昨年に続いて今年もなかった。復興と太平にあやかり、秋空の下でそばを手繰る光景を来年こそ見たいと願う◆行きつけと呼ぶほどの頻度ではなく(どちらかというと駅の立ち食いのほうが好きなのだが)たまに近所の一軒へ足が向く。ぶっかけみたいな食べ方の冷たいそばが来る前に板わさで岩波を飲む。お銚子がもう1本増えることもある。

連載・特集

もっと見る