連載・特集

2020.11.5みすず野

 作家の水上勉さんが85歳で没して、はや15年になるが、水上さんは70歳の6月に心筋梗塞を患い、心臓の3分の2が壊死、3年間に及ぶ病院生活を余儀なくされた。その後、東京から信州の山里に居を移して、農業と文筆の日々を送った◆1000年近く前の南宋の詩人・陸游に倣った。陸游が70歳のときに詠んだ「蔬食」と題する詩があって、水上さんいわく蔬食とは野菜ばかりの食事のこと。肉を食べなくても豆腐などをタンパク源とし、野菜はほぼ自給しながら、子ども時代の禅寺生活で身につけた精進料理を作って暮らした。『土を喰う日々』『精進百撰』といった本で、知ることができる◆水上さんは9歳で京都の寺に入れられ、母恋しくて脱走を繰り返し、17歳で還俗後職を転々、貧困と病苦に耐えて小説家として認められた。直木賞をはじめ多くの文学賞を受賞した大作家だが、晩年、信州で農耕の人となった生き方に親しみを覚える。「土は母なる大地。私たちはいつかは土に帰る」◆「毎晩眠るときには『じゃ、さようなら』と周囲につぶやいて眠りに落ちることにしている」と語った。実際そういうしまい方をされた。

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