連載・特集

2020.11.27みすず野

 松本清張原作、野村芳太郎監督の映画「砂の器」は、冒頭2人の刑事が、東北秋田の片田舎、羽後亀田駅に降り立つところから物語が始まる。主演の丹波哲郎演じる刑事は、その後も殺人犯の足取りを追って、山陰の松江から奥出雲、伊勢、さらに北陸石川へと地道な捜査を進める◆列車による旅の物語とも言える。加えて殺人犯が幼少期、難病を背負った父と郷里を追われ、つらい遍路の旅を続けるシーン(回想)が、捜査会議とコンサートと同時進行し、見る者の胸を打つ。奥出雲の地には「砂の器」の碑などが建ち、映画から半世紀近く経るのに、訪れる人が後を絶たない◆フィクションであっても、名作は歌枕を生み、いまを生きる私たちの旅を誘う。余談だが、最近文庫で出た柚木裕子さんの『盤上の向日葵』(2巻、中公文庫)もまた、刑事が白骨死体の遺留品の将棋の駒の足取りを追い、日本各地を行く。重要舞台の一つは諏訪。昭和の清張作品に通じる魅力がある◆自粛要請にもかかわらず、「Go To」で割り引かれるとあれば、有名観光地は人、人、人。旅と観光旅行は違うが、情緒も何もあったものではない。