連載・特集

2020.11.25みすず野

 作家の三島由紀夫が割腹自決を遂げて、きょうで50年になる。半世紀の歳月が流れたことに驚きを禁じ得ないが、もっと驚くのはあの衝撃があまり薄らいでいないことだ。自分があの日、どこで、何をしていたか、よく覚えているという人が多いと聞く◆「このまま行ったら、日本が日本でなくなってしまう」「生命尊重のみで魂は死んでもいいのか」―。三島は最後に、戦後民主主義社会の否定とも受け取れる言葉を発して果てた。この昭和45(1970)年は、70年安保、大学紛争が敗北に終わった後、日本は西側諸国で米国に次ぐ経済大国にのし上がり、「昭和元禄」と呼ばれる太平ムードがあふれた年だ◆大阪万博が開幕し、国民は安保などもはやどうでもよく、万博という国挙げてのお祭りに酔いしれ、物が豊かになる生活の味を覚え、平和と繁栄を謳歌していたのだが、三島は日本は日本でなくなって、無機質な、富裕な、抜け目のない、経済的大国が残るだけだと憂い、それでいいかと訴えた◆予言は平成バブル期までは当を得ていたと思う。現在の日本は、そんな経済大国の面目も失いつつあり、空洞感の広がりは否めない。