連載・特集

2020.11.21みすず野

 今まで何げなく目にしていた詩句が突然、心に染み渡る。歌人で美術史家の會津八一が書生のために作ったという4カ条の「秋艸堂学規」を取り上げたい。短いので全文が小欄に収まる◆学問を志す若者に与えた規矩が〈ふかくこの生を愛すべし〉で始まるのは深い。平たく言うと、命を大切に―だろうか。とげとげしい批判が飛び交って自分を見失いがちな昨今、続く〈かへりみて己を知るべし〉とともに味わいたい言葉だと思う◆〈学芸を以て性を養ふべし〉と、修養を説く。八一は昭和5(1930)年から4年間、朝日村を訪れて講演した。「そんな田舎で俺の話が分かるか」と一度は依頼を断ったのだが、早稲田で同僚の吉江喬松や窪田空穂が自分たちの郷里だからと取り成した。1回きりのつもりが、東筑摩の教師たちの熱心な聴講態度に心を動かされ「来年も来てもよろしいか」と言った◆最後の〈日々新面目あるべし〉に背筋が伸びる。老境にも学規を人生訓とした。64年前の11月21日に75歳で亡くなった八一は、これくらいの目安で臨めば〈一生の末までには、いくらか実行が出来るのではあるまいか〉と書き残している。