連載・特集

2020.11.20みすず野

 平林たい子は出てくるが、平林英子は出てこない。かつて郷土出版社が刊行した『長野県歴史人物大事典』である。インターネットで「平林英子」で検索すると、短く「小説家。中谷孝雄の妻で、本名中谷英子。南安曇郡梓村(現松本市)出身、武者小路実篤に師事し、新しき村に入る」などと記されている◆彼女は、当地でも知られていないと思われる。それが地域史研究家・中島博昭さん(安曇野市)と妻の美澄子さんが著した『山茱萸』(文芸社)で、中島さんが「もうひとつの安曇野文学 平林英子伝」として、その生涯をつまびらかにしている。若いころから地域史を取材して歩き、埋もれた人物に光を当ててきた中島さんならではの労作だ◆夫妻は総合文芸誌『安曇野文芸』に、創刊以来携わり、20年間さまざまな作品を発表してきた。作品集は結婚60年の区切りに出された最大の結晶だろう。こうした何ものにも代え難い、その方の人生の集大成と言っていい本(句集、歌集、エッセー集)が折々届けられる◆「みどりごがヒトの芽ならば祖母われは/実にてありたしあらねばならぬ」。美澄子さんのあと書きの歌である。