連載・特集

2020.11.2みすず野

 船頭さんが1本の長い棹でこぐ舟による「川下り」で有名な福岡の柳川。実際には川を下るのではなく、柳川城跡を中心に巡らされた掘割を、観光客は1時間以上かけて静かにゆっくり舟で進み、景観を楽しむ◆柳川出身の作家・檀一雄が「我が故郷はシブタ(小魚の一種)も住まず蚊蚊ばかり」と嘆いたほど、掘割は水草が繁茂し、ごみの不法投棄も横行した時代があり、埋め立てを市議会が了承するところまできたが、当時の下水道係長の熱意を受けた市長が一転、保存・整備に踏み切ったのだという。昭和53(1978)年ころの話◆声を上げた下水道係長も、方針転換した市長もえらかった。いまでは全国に名だたる「水郷のまち」となり、年間120万人を超える観光客が訪れる。童謡「ゆりかごのうた」「からたちの花」などで知られる詩人・北原白秋の生家が街中に現存し、舟をおりると近くにある◆造り酒屋のたたずまいを伝える、幕末から明治初期に建てられた母屋が、記念館として公開されている。きょうの「白秋忌」に、訪ねた冬を思い出した。柳川名物「うなぎのせいろ蒸し」のほうが実は印象深かったのだが。

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