連載・特集

2020.9.25みすず野

 江戸後期に飢餓対策として栽培され、明治維新後、北海道開拓に利用されたジャガイモ。当初は西洋料理の素材だったというが、次第に家庭に普及し、いまでは肉じゃが、ポテトサラダ、コロッケ、カレー、おでん、みそ汁などさまざまな料理に用いられている◆馬鈴薯とも言う。歳時記では大概「馬鈴薯」で出ていて、石田波郷という俳人の句に「かなしくて馬鈴薯を掘りさざめくも」がある。波郷は人間性に深く根ざした作風で知られた。戦時中、結核を発病し、昭和44(1969)年に56歳で没した。戦中から敗戦直後にかけて馬鈴薯は、いわゆる「代用食」として重宝された、年配者には思い出深い作物だ◆「かなしくて―」の句は、親族の病を悲しむ一方で、馬鈴薯の収穫を喜ぶ叔母たちの様子が見えると。土を掘ると、そこから大小の馬鈴薯がごろごろ出てきて、悲しみもさることながら、ああよかった、これでひもじさから開放される、と顔々がほころんだのだろう◆拙宅でも盛夏に掘り出し、少しずつ川で洗ってはポテトサラダやカレーにして食べている。長雨などで大方の野菜は不出来だったが、馬鈴薯は影響がなかった。