連載・特集

2020.8.7みすず野

 昭和22(1947)年、日本の町々には、戦争孤児やホームレスがあふれていた。「みどりの丘の赤い屋根 とんがり帽子の時計台鐘が鳴りますキンコンカン―」。夕方5時15分になると、NHKラジオからこの軽快な曲が流れた◆連続放送劇「鐘の鳴る丘」の始まり始まり。みんなラジオの前で聞き入った。戦争孤児の救済に情熱を燃やす青年が、孤児たちと幾多の困難を乗り越え、鐘の鳴る丘に家を築く物語で、昭和25年12月まで3年半、790回続いた。敗戦で打ちひしがれた人々の胸に、明日への希望の灯をともした◆安曇野市穂高有明ゆかりの話でもあって、最近復刻された『身分帳』(佐木隆三著、講談社文庫)を読んで、思い出したのだ。人生の大半を獄中で過ごした男(44歳)が、極寒の旭川刑務所を満期出所し、社会生活をスタートさせるものの、4年8カ月後、福岡市内のアパートで孤独死してしまう◆その間の生活ぶり、市民とのふれあいやあつれきが克明に描かれている。男は戦争孤児。当初戸籍すらなく、孤児院を転々として犯罪を重ねた。男はそんな時代の犠牲者とも言えよう。戦争孤児、いまや死語である。

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