連載・特集

2020.8.5みすず野

 工学博士、東大教授でありながら、俳人として有名な山口青邨に「みちのくの風鈴まつり山の風」がある。青邨は岩手盛岡の出身。盛岡の伝統工芸と言えば南部鉄器で、この風鈴まつりは、青邨が育った盛岡の南部風鈴を指すに相違ない◆医学博士、同じく東大出身の秀才でありながら、俳人として名を成した水原秋桜子には「姿見に見ゆる風鈴鳴りにけり」がある。姿見とは、むろん全身が写せる大きな鏡。浴衣姿の女性がわが身を写す、その背後に見える風鈴が、風を受けてちりんと鳴った、そんな情景を思わせる◆風鈴。何といい呼び名であろうか。室町時代に普及したとされ、金属製、ガラス製、陶器製があって、江戸時代、風鈴売りは夏の風物詩となった。たくさん吊した風鈴の音色は、遠くからでもよく響くので、ほかの売り物と違って、掛け声を出さないのが決まりだったとか。30年ほど前、南部風鈴を土産にいただき、今夏も和室の窓枠でいい音を響かせている◆いま、風鈴を求めるとすれば、松本の縄手通り、塩尻の奈良井宿あたりか。音色一つで涼感を抱けるというのは、日本人ならではの繊細な心情、大切にしたい。

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