連載・特集

2020.8.2みすず野

 職場の庭に生い茂っていた草をシルバー人材センターの人がきれいに刈り払ってくれた。生け垣も農道沿いの立ち木も見通しが良くなり、気持ちがいい。雨をたっぷり含んだ草いきれが事務所内にも漂う◆この匂いをかぐと、学生時代の夏に山奥の植林地で下草刈りのアルバイトをした思い出がよみがえる。発電所の管理棟に寝泊りし、ごっそりと手づかみできるほどのブヨが飛ぶなか、雨の日も風の日も草を柄の長い鎌で刈った。指導役の小池さんという老夫妻から鎌の扱いや研ぎ方のこつを教えてもらいながら◆小池さんが薄緑色のたばこケースを取り出す。オレンジ色の紙箱が透けて見えた。くゆらせる何ともうまそうな表情が忘れられない。1カ月ぶりに駅のある里へ下りると、作業服を着ていない人の姿が奇異に感じられたものだ◆本紙コラムニストの原薫さんが林業人生の始まりとなった土地と年月を「宝物」と振り返っていた。落ち込んだり行き詰まったりしたとき、立ち戻れる場や人の存在はありがたい。楽しさや苦しさに将来きっと支えられるだろう。「一服するか」と腰を下ろす小池さんの声が聞こえたような気がした。

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