連載・特集

2020.8.10 みすず野

 白馬三山まで続く北アルプスの山並みが、くっきりきれいに眺められる日、あの山の頂は立てた、あの山には登っていない、もう登れそうもない、との感懐を抱く。そして山の文庫数冊を手元に引き寄せ、ページを繰る。コロナ禍の今夏、山好きはいっそうそんな感じではあるまいか◆『名作で楽しむ上高地』(大森久雄編、ヤマケイ文庫)『むかしの山旅』(今福龍太編、河出文庫)『わが愛する山々』(深田久弥著、ヤマケイ文庫)など。『名作で楽しむ上高地』は、古今の岳人や文学者の上高地紀行の佳作が収められ、どれを取り上げてもいいが、現在の松本市生まれの歌人・窪田空穂の「明神の池」は、1世紀以上前の上高地温泉や明神池にまつわるエピソードがつづられ、実に面白い◆『わが愛する山々』は、かの『日本百名山』の雑誌連載が始まっていた時期(60年前)に書かれた深田の、もう一つの代表作。南アルプス塩見岳、聖岳など地味な名山が並んで、これも味わい深い◆ヒマラヤ山脈の大きさや凄さはないが、日本の山は本当に美しいと、初版あとがきで深田は刻している。きょうは「山の日」。山を望み、山を想う。

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