連載・特集

2020.8.1みすず野

 ヘミングウェーや開高健を挙げる人もいよう。嚆矢は幸田露伴か佐藤垢石か。魚釣りに魅了された人たちの文章を味わう。垢石からアユ釣りの手ほどきを受けた井伏鱒二は、師を〈見込のある弟子を得た〉と喜ばせた◆プロフィルに「テンカラ釣りの伝道師」とある山本素石(1919―88)は江州甲賀の生まれ。随筆を読むと京都で暮らしたようだ。虫に似せて作った毛針しか使わないこの釣法の師匠を木曽福島の〈杉本英樹博士〉とし、自ら木曽の〈正統派〉をもって任じている(『新編溪流物語』ヤマケイ文庫)◆これにちなんで「テンカラの聖地」とうたう木祖村が昨季に続いて今季も、村内の笹川に優先区域をきょうから9月30日まで設ける。都会から釣り客を呼び込めるといい。加えて広く地元の人が安全に釣りや川に親しむきっかけともなればと願う。特に子供たちは「危ないから」と遠ざけられて久しい◆木曽にはかつて5年半余り住んだが、釣りざおを振り込む機会に一度も恵まれなかった。垢石や素石に言わせると、まだまだ邪念があり過ぎて〈山川草木の一部分〉となる修練の入り口にも程遠いということなのだろう。

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