連載・特集

2020.7.18みすず野

 奈良・薬師寺の修学旅行生への法話はよく知られている。覚えている人も多いだろう。黒い衣をまとった坊さんが「どこから来ましたか?」と問い掛ける。生徒たちが「長野県」と声をそろえると、決まって「いい所ですね~」◆半分はお世辞だろうが、もう半分は本心なのだ。信州の学校と薬師寺の縁は深い。戦後間もない頃に天平建築の東塔の屋根がふき替えられた際、子供たちが一人5円、10円の浄財を寄せた。寺は瓦に校名を刻み、謝意を伝える。数年前に中信地方への瓦の「里帰り」が話題となった◆事前学習や見学態度の熱心さは評判だった。めいめいが「旅のしおり」を携え、坊さんが塔の説明を始めると先回りして「裳階!」などと言う。法話のお礼に「信濃の国」を合唱したという逸話も信州の先生方らしい。いくら好きな歌も毎日聞かされては堪らない◆郷土の中学校が修学旅行の実現を探る。先輩の思いもこもった至宝を見てきてほしいと願う。12年かけて大修理が成った東塔を拝みに行きたいところだが、何とも前のめりな「GoToトラベル」の掛け声に、感染リスクへの心配が重なって一歩を踏み出せずにいる。