連載・特集

2020.6.6みすず野

 計画だと、今頃は北穂の小屋で「気ままに文学散歩」の最終回を書くはずだった。連載を始めた当初から「1年後の締めくくりは北アルプスで」と周囲に言い、秋の新田次郎の回では槍の穂先で穂高の岩塊に向かい「来年行くよ」◆登山道で視界を遮っていた霧が動き、小屋の屋根が現れたときのうれしさや安堵感と言ったらない。テントと乾燥米を担いで登ったのは30代までで、体力の衰えにあらがえず専ら小屋を利用させてもらっている。紅葉の時季の涸沢の混雑ぶりや、徳本峠のランプの下での酒盛りが懐かしい◆その山小屋が夏山シーズンを前に苦境に立つ。宿泊人数の制限で「密」を避けると、収益が悪化して雇用も守れない。県が支援策を検討している。登るほうとしては県の「信州安全登山アクション」のうち「事前予約を徹底」が少し窮屈だ。朝の天気を見て山へと足が向くことだってある◆道の補修や遭難救助で山の安全と安心も担う山小屋がもしも無くなってしまったら困る。今夏登れなくても登ったつもりで1泊分を寄付したい。たとえ少額でも山を愛する人たちの気持ちを集めれば。そんな仕組みができないものか。

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