連載・特集

2020.5.29みすず野

 栃木弁の実直な語り口で親しまれた作家の立松和平さんが、62歳で急逝してから10年になる。有名作家であっても巨匠でない限り、10年たつと、作品も人物も大方忘れられてしまうようである◆立松さんは大学卒業後、職を転々としながら執筆を続けるが、いったん帰郷して宇都宮市役所に就職する。鬱々としていた立松さんを訪ね、出世作『遠雷』を書かせたのは、河出書房新社の文芸誌『文藝』の編集長を務めた長田洋一さん(安曇野市)。立松さんとの絆は、友人以上、兄弟のように強かったと伺っている◆立松さんが自身の生い立ち、父母の思い出、青春時代、作家への苦闘の日々をつづったエッセー集『いい人生』(野草社)は「私は幸福であった。いい人生だったなあと、心から思っている。思い残すことはない。ありがとう。さようなら」の文章で締めくくられている。亡くなる直前ならまだしも、書かれたのはその8年前◆若いころから旅を続け、仏教を探求し、死を常に意識していたからであろうか。新型コロナウイルスの感染は、私たちに死を意識させたのはまちがいない。立松さんを思い起こさせる機縁もコロナゆえ。

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