連載・特集

2020.05.17みすず野

 休日に炭火をおこす。東北の産地から取り寄せたナラ材の炭にふぅ~と息を吹き掛けると、真っ黒な中に赤い火が広がってカリッと音を立てる。癒やされるのは狩猟が生業だった遠い先祖の記憶だ。自称キャンパーの同僚の説である◆岩波文庫の『中谷宇吉郎随筆集』を読んだ。戦争3年目の冬に地方の駅で汽車を降り、ようやく宿を見つけ、通された部屋に『古事記伝』だの『島津斉彬言行録』だのといった本が書棚にいっぱいあったという話が心に残った。雪と氷の研究で知られる物理学者で、寺田寅彦を師と仰いだ◆読書は眠くなる。そんな時は音楽を聴く。学生の頃はよく歌った。カラオケのない山奥の廃校で車座をつくり、手拍子を打って茶わん酒。山のテント場でも同じ調子だったから、やかましいと叱られた。酔態と並べては申し訳ないが、楽都の祭典OMFの中止に多くのファンが肩を落とす◆かつての同僚が山に登ったまま帰らぬ人となった。山で死ぬなと言ってたじゃないか。「遥かな友に」を皆で歌おう。ボニージャックスもいいけれど、今宵は倍賞千恵子で。静かな夜ふけにいつもいつも思い出すのはお前のこと。

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