連載・特集

2020.1.19みすず野

 かつ玄の広告に「蠣」の文字を見ると、無性に食べたくなる。木曽支局時代に福島の居酒屋で食べた岩がきは、うまかった。大ぶりの身にレモンを搾り、喉へ丸ごと流し込む。口いっぱいに磯の香りが広がった◆松本駅前のイタリア料理店に上がればオイスターと名を変え、オリーブオイルを垂らす。村上春樹の『騎士団長殺し』で、男2人で挟む食卓に新鮮な生がきがあった―ウイスキーのシーヴァス・リーガルを飲みながら。九州の実家では「せっか」と呼んでナマコやブリとともに正月の膳に上った。ポン酢だった◆食通の北大路魯山人はさまざまな雑炊の作り方を紹介した随筆で、まず牡蠣を挙げる。味付けは塩やつゆ、しょうゆ―何でもおいしいのだ。カキを煮過ぎず、セリは火から下ろして振り混ぜる―と念を押す。「森は海の恋人」で知られる畠山重篤さんはカキ養殖家である。俳句では冬の季語とか。〈山国にきて牡蠣の口かたしかたし〉矢島渚男◆今夜はかき鍋か。かきフライもいい。千切りのキャベツをたっぷり添えて。手帳を開くと年少の友人から昼飯に誘われている。店は特に決めてない。彼はカキが好きだろうか。