連載・特集

2019.12.14みすず野

 人生っていいな、人生っておもろい、と思わず口にしてしまう本を手にした。『週刊新潮』表紙絵を20年以上かき続けている画家・成瀬政博さん(松川村)の画文集『表紙絵を描きながら、とりあえず。』(白水社)である◆大阪生まれの成瀬さんが、どう少年期を送り、何を夢に見て、大学卒業後、モラトリアム(猶予期間)を経て、2人の子どもを抱えるシングルファーザーとなり、再婚、新たに3人の子どもに恵まれ、大家族で安曇野に移住、表紙絵画家に採用され、現在に至る歳月がまるで映画の場面場面のように、象徴的な絵とともにつづられている◆行き当たりばったりとも言えるが、一貫しているのは、成瀬さんが苦闘の時代も希望を失わず、自分に正直に生き、その度に誰かが救いの手を差し伸べてくれ、認められていった、ということだ。54編の文章はどれも軽妙で、どこか懐かしく、ちょっと切ない◆無謀にも脱サラした貧乏絵かきの子だくさん、とはた目からは見えたろう30代半ばを、いま古希を過ぎて、「あのころがいちばんしあわせな時代に思えるのです」と振り返る。一人の画家の思いの丈が詰まった一冊だ。

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