連載・特集

2019.11.9みすず野

 炉を開ける時季である。通っぽく書き始めたのは森下典子さんの随筆『日日是好日』(新潮文庫)を読んだからで、もとより茶の湯の心得はない。「お茶」が教えてくれた15のしあわせ―の副題に引かれ手を伸ばした◆茶道の細かく決められた所作や、夏と冬で異なる道具を一つ一つ覚えるのは面倒だ。それでもお点前をひたすら繰り返すうち手が自然と動くようになった。習い始めた頃の〈不思議な感覚〉がつづられる。少しうらやましい。伝統の世界に身を浸すことで得られるかもしれない心の安息への憧れだろうか◆穂高神社で毎秋開かれる菊花展の表彰式会場で、高校の制服姿の2人が目を引いた。ともに南安曇農業3年生の難波俊太君と小原優夏さんは菊作りに興味を抱き、卒論のテーマに選んだのだという。「盆栽は花と枝、幹のバランスが大事」「進学先から帰郷したらぜひまた作ってみたい」と頼もしかった◆15の幸せは読んで見つけてもらうとして〈花が咲いたら祝おう。恋をしたら溺れよう〉のくだりが心に残った。落ち込んだり、つらかったりの毎日だが〈一期一会〉に励まされた次第。穂高神社の菊花展はあすまで。