連載・特集

2019.11.6みすず野

 農村部に暮らし、週末に道沿いの畑で汗を流していると、よく車(大概県外ナンバー)が一時停止し、「この近くに、確かそばの里があると聞いたんですが」「何年か前に農産物直売所で、マツタケを買った記憶がありまして」などと道を聞かれる◆少し前まで農村部の週末は、農道をトラクターや耕運機が行き交い、どこの田畑にも日曜農業に勤しむ人の姿があって、にぎやかだったものだが、いまはしんと静まり返り、数少ない畑人を見つけて車が止まるのである。新そばの話を書こうとして、前置きが長くなってしまった。信州は現在、北海道に次いで全国2位のソバの生産量を誇るが、その歴史も5世紀にさかのぼるくらい古い◆「信州そば」が広まったのは江戸時代。江戸の町のそば屋には「信濃」「更科」「戸隠」といった信州人が始めたと見られる屋号が多かった。浅草では、松本出身の僧の手打ちそばのうまさが評判になったそうだ。いまの季節はまだ「かけ」よりも、「もり」を食べたい◆「もり」のうち「ざる」がいい。「ざる」は、やはり江戸期に深川の店が小型のざるで出し、人気を呼んで今日に至るらしい。