連載・特集

2019.11.17みすず野

 難しいかじ取りであったろう。全国の首長共通の悩みとは言え、人口が減って高齢化が進む局面のなか、多少の借金も「行け行けどんどん」で乗り切れる時代ではない。今期限りでの引退を表明した松本市の菅谷昭市長である◆紙面で表明の全文を読んだ。「私の市政運営にさまざまな意見があることは十分承知している」は作家・吉川英治の「魚歌水心」を思い起こさせた。武蔵を快く思わない人々が「小次郎にとどめを刺し忘れた」と笑う。波に任せて魚は歌い躍るけれど〈誰か知ろう、百尺下の水の心を〉◆取材先で批判もよく聞いた。「以前の市長さんはあれもこれもやってくれたのに」「経済に弱い」と。裏を返せば、自ら掲げた施策への信念の強さの表れとも読み取れる。「引き際」と呼ぶまい。その職責は任期ごと選挙民から負託されるのだから。「全文」にもその文字はなかった◆▽戦後の筒井▽合併の松岡▽開発の降旗▽福祉の深沢▽教育の和合―。歴代市長に冠された主な仕事を先輩記者がかつてコラムでこう紹介していた。続けるなら▽ハードの有賀▽ソフトの菅谷―か。「健康の菅谷」かも。市民が命名するだろう。

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