連載・特集

みすず野2019.11.15

 与謝蕪村は、芭蕉、一茶と並ぶ江戸時代の最も有名な俳人。蕪村は前半生、芭蕉の足跡をたどってみちのくを遊行し、42歳のころ、京都に居を構えたらしい。信州にも来ているのでは。後半生を旅に生きた芭蕉とは正反対だ◆「春の海終日のたりのたり哉」「菜の花や月は東に日は西に」に代表されるように、春の俳人のイメージが強いが、秋の佳句も多い。「灯をともせと云ひつゝ出るや秋の暮」は、秋の夕暮れ、障子に映るわが家の火影をわざわざ見るため、戸外に出てみた、というのである◆孤独な放浪を続けた若いころ、火影がどれほど恋しかったか。いま家を持ち、妻をめとり、つましくも暮らせている。その幸せを確かめる蕪村、ととらえることができる。「限りある命のひまや秋の暮」もいい句だ。命には限りがあるのに、せわしく生きざるを得ない。秋の暮れ、ひとときのひまを得、それをしみじみ味わう◆蕪村を「郷愁の詩人」と呼んだのは、萩原朔太郎だが、秋の句にはとりわけ郷愁を感じる。壮年期まで人は、郷愁など感じる間もなく前を向いて生きる。老年が近づいて、真の郷愁や命のひまの大切さを知るのだろう。

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