連載・特集

2019.10.22みすず野

 作家の檀一雄が残した太宰治と中原中也の思い出記は、二人の素顔をあぶり出すようで興味深い。「太宰は、中原をひどく嫌悪しながら、しかし、近づかねばならない、という、忍従の祈願のようなものを感じていた」◆太宰は、自分のうぬぼれや虚栄心が、中也に会うと脅かされるため、内心嫌いながら、尊敬の念を抱こうとしていたそうだ。酒の酔いが回った中也の舌鋒は、太宰に限らず誰に対しても大変なものだったらしい。中也と一人の女性をめぐって因縁のあった小林秀雄は、こう記している◆「中原の心の中には、実に深い悲しみがあって、それは彼自身の手にも余るものであったと私は思っている。彼の驚くべき詩人たる天資も、これを手なづけるに足りなかった」。中也の詩は青春時代に読むと、胸に染み入る。「汚れつちまつた悲しみに/今日も小雪の降りかかる―」「これが私の故里だ/さやかに風も吹いてゐる/あゝ おまへはなにをして来たのだと.../吹き来る風が私に云ふ」◆少年のころは楽しかったという郷愁と、いまのもどかしさ、深い孤独感。中也は昭和12(1937)年のきょう、30歳で永眠している。