連載・特集

2019.10.12みすず野

 昨夜の十三夜の月は台風が従える雲に遮られた。栗名月。豆名月とも。金田一春彦さんの『ことばの歳時記』によると、旧暦八月の十五夜を「いも名月」と呼ぶのはサトイモの収穫期だから。サツマイモではなかった◆芥川龍之介の『芋粥』の芋はヤマノイモ。これもなんとなくサツマイモ入りのおかゆを想像していた。読めば「山の芋」と書いてある。「東京の若い女性」なら誤解しそうだ、と金田一先生が笑うのを一緒に笑えない◆芋粥に飽きるのを夢みる五位は、利仁に連れられて京から敦賀へ。朝起きると、庭に芋が山のように積まれ、釜が五つ六つ―。この風采の上がらない五位の心情に共感を覚える。初めて読んだ若い頃は地方豪族の権勢に関心を向けたものだ。夢の成就よりも、思い続けるいちずさに幸せを見いだす。かなわなくったっていい◆山芋をすりおろしてマグロの刺し身やそばにかけたり、お好み焼きの生地に混ぜたり。特産の長芋が載る山形村の「やまっちそば」を楽しみにしていた人も多いだろう。信州・松本そば祭りが台風を警戒して中止になった。ぜひ村を訪ねて、つるっシャキッの食感を味わってみたい。