連載・特集

2019.9.8みすず野

 奈良の古寺巡りが好きな人には親しい名だ。東大寺の南大門をくぐって大仏殿へ向かう参道にも歌碑が立つ。きのう付小欄の「柿」つながりで拾えば〈まめがきをあまたもとめてひとつづつ/くひもてゆきしたきさかのみち〉◆秋艸道人と号した會津八一を朝日村に呼んだのは洗馬と朝日、山形、今井の小学校の教員たちだった。熱心な聴講態度が、当初あまり乗り気でなかった八一を感動させた。島木赤彦や折口信夫、柳田国男―と郡教育会に招かれた講師の名を聞くだけで、向学心とレベルの高さに驚かされる◆講義から20年以上たった昭和29年、受講した人が新潟を訪ねて展示会場で「東筑摩郡」と記帳したところ肩をたたく者がある。なんと八一その人だった。写真で見ると何だか怖そうな八一先生だが、図書館で『全集』を借りて日記に「長野縣某校長ほか一名来訪」と見たら、じ~んとなった◆八一は当時、法隆寺再建論に没頭していたため朝日で歌を詠み残していない。ただ惜しまれる。「気ままに文学散歩」であちらこちら歩いている。30年余この土地に住み、この仕事をしていても見聞きするのは知らなかったことばかり。