連載・特集

2019.8.17みすず野

 音楽には不思議な力がある。取材先でも生演奏が始まった途端に涙腺が緩み、慌ててカメラを構える。癒やされた、心が洗われたとありふれた言葉しか出てこないけれど、その感じは聴くほうの心が弱っている時ほど強いようだ◆セイジ・オザワ松本フェスティバル(OMF)があって「楽都」を掲げる郷土では、まちなかに音色や歌声が響いたり、子供たちが一流の調べに触れられたり。一朝一夕には成らなかった。携わる人たちの信念を多くの市民が長年支え、つないで来た。積み重ねが未来へと続く◆お盆に松本駅へ行くと、うれしそうに鍵盤をはじく高校生くらいの女の子が人垣の中にいた。誰でも自由に弾ける「ストリートピアノ」を置く取り組みが全国で広がっているという。街に出る楽しみが増えた。「文化を育む仕掛けがまた一つ加わった」と10年後、20年後に言われるといい◆OMFのプログラムに「ピーターと狼」を見て、子供の頃なじんだ旋律が耳によみがえった。クラシックとは無縁のわが家にもレコードがあった。オペラ「エフゲニー・オネーギン」では恋の行方と熱情が観客を酔わせるだろう。祭典の始まりだ。