連載・特集

2019.8.11みすず野

 「昔の大坂城はもっと大きかったんやで」「徳川につぶされてもうたからな」―。松本城の天守を望むベンチに居たら、観光客らしい中年男性グループの会話が耳に入った。関西弁に太閤びいきが色濃くにじむ◆山岳ミステリー作家の梓林太郎さん(86)を先月、東京の仕事場に訪ねた。刑事や探偵など複数の主人公を使い分けて操り、松本や安曇野、北アルプスが舞台の作品を数多く書いている。タイトルは『京都・舞鶴殺人事件』でも、事件が最初に起きるのは上高地だ◆若い頃から山に登り、常念と北穂が一番好きだという。舞台設定は必然だった。「稜線が白くなる頃の安曇野はたまらんね」「松本へ行くたび、お城近くの井戸で水を飲む」と楽しそうな口ぶりに接し、話し手と聞き手のどちらが信州に住む人間だろうかと思った◆天守を仰いで冒頭の会話は続く。「昔の人は大したもんや。クレーン無しやで」「よう造ったな。どないして瓦を上げたんやろ」―。しきりにクレーンと言っていたから建築関係の人かもしれない。よその人に地元の魅力を教わる。きょうは祝日「山の日」だ。登らなくても本を読んで山に親しみたい。