連載・特集

2019.6.8みすず野

 宿場では街道筋の家老らが出迎え、カツオの刺し身やうなぎ飯が出て、土産に干鯛も―。幕府の威光が分かる。徳川家御用の宇治茶を運ぶ「お茶壺道中」に付き添った人たちの証言である(篠田鉱造著『幕末百話』岩波文庫)◆大名行列よりも格上とあって、行き会うと寺に逃げ込んでやり過ごす殿様もいたという。田植えも禁じられた庶民の窮屈さはなおさらで、わらべ歌「ずいずいずっころばし」は権力への風刺―とは武田鉄矢さんの「今朝の三枚おろし」からの受け売り。〈茶壺に追われてトッピンシャン〉◆証言を読むと、虎の威ならぬお茶壺の威を借りたふんぞり返りぶりが眼前に浮かぶようだ。侍たちが小さな茶壺に入れてもらったひき茶は寿命を延ばすなどと珍重された。それだけに「もうあの夢は再び見られません」としょげ返るのがおかしい◆塩尻市楢川地区で木曽漆器祭・奈良井宿場祭が始まった。最終日のあすは道中を再現した恒例の時代行列が披露される。伝統を守り継ぐ誇りと時代に合わせたものづくりの感性が漆工・宿場町を支える。お気に入りの漆器を探しながら、そぞろ歩きとタイムトリップを楽しみたい。