連載・特集

2019.6.15みすず野

 初めて松本駅に降り立ったのは昭和58年春だから、先代の駅舎を写真でしか知らない。5年前に建て替えられて、駅ビルになっていた。西側のベランダから眺めた残雪の山並みが今も鮮やかに思い出される◆駅は地域の玄関だ。高層ビルに囲まれた大都市のターミナル駅から、ひなびた山中の無人駅まで、駅舎のたたずまいが旅の印象に刻まれる。「乗り鉄」作家の宮脇俊三さんは東京~長崎が鉄路3日がかりだった昔を懐かしみ、道路や鉄道が良くなった代償に地方色が薄れたと嘆く(『時刻表2万キロ』)◆松本駅周辺の再開発に向け、松本市とJR東が連携協定を結んだ。駅ビル改築も検討課題に挙がる。新しい時代に合ったまちづくりが進められるのだろうが、一方で全国の駅が似たり寄ったりの造りになり、どこに着いたか駅名標を見るまで分からないというのは寂しい◆速度を落とした列車がガクンと揺れる。ああ松本に来たんだ、帰って来たぞと思える風景がほしい。差し当たっては、以前に小欄でも紹介した樹木希林さんの直言が道しるべとなりはしないか。いわく「駅を降りたときの景色に他の都市同様『らしさ』がない」

連載・特集

もっと見る