連載・特集

2019.5.16みすず野

 その地を訪ねようとしたのではなく、出張帰りなどにふと立ち寄った場所が、美しい町並みを残す旧城下町、門前町、宿場町だったりすると、えらく得した気分になる◆兵庫県豊岡市の出石がそうだった。「出石」の道案内が現れ、どこかで聞いた地名だと思って、寄り道したところ、出石焼の白地の小皿にそばを盛る「皿そば」の出石であった。信州・松本そば祭りによく出店され、食べた記憶がよみがえった。「但馬の小京都」と呼ばれる城下町で、風情ある景観が整えられて、大勢の観光客でにぎわっていた◆出石そばは、上田藩の仙石氏が江戸中期、お国替えで赴いた際に伝えたのが始まりとされ、信州ゆかりのそばである。きょうは「旅の日」。俳聖芭蕉が、かの「奥の細道」に旅立った日(旧暦だと3月27日)に当たり、昭和63(1988)年に定められた。現代の旅行とそのころの旅の厳しさは全く異なるが、旅心には共通するものがあろう◆往時の旅人は、その旅の目的が何であれ、倒れれば客死を覚悟していた。郷里や家族を捨てる覚悟の旅も多かった。かつての旅に思いをはせ、旅心をわき立たせるにはいい季節。