連載・特集

2019.4.6みすず野

 梅が香る万葉の歌会に思いをはせた人も多いだろう。奈良時代の天平2(730)年正月に九州・太宰府の大伴旅人邸で催された。「帥老ノ宅ニ萃ル」と書き出された序文が新元号「令和」の典拠となった◆書棚の飾りとなっている『萬葉集私注―新訂版』を引っ張り出す。著者はアララギの歌人で松本高等女学校(現・松本蟻ケ崎高)の校長も務めた土屋文明。序文の起草者について「帥老」が敬称だから旅人でないとし、歌会に集まった人を見渡せば「憶良を持って来るのが最も自然であろう」と記している◆山上憶良は筑前国守の任にあった。太宰帥(長官)の旅人と任期が重なる。旅人は息子の家持を任地に伴っていた。万葉集の編さんにも関わったとされる家持は13歳だった。父旅人と交流する憶良の「人生観や作歌姿勢を目の当たりにした」(中公新書『大伴家持』)◆憶良の「貧窮問答歌」は教科書で習った。貧しい庶民の暮らしを描き、時世批判を込める。今で言う社会派歌人だ。未曽有の被害をもたらした東日本大震災から8年。困難な状況に置かれた弱い立場の人たちにも手を差し伸べる。そんな新時代であってほしい。

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