連載・特集

2019.4.13みすず野

 本紙コラムニストの山本勝夫さんが9年前の「湯坂だより」で、石川啄木の歌を挙げて信濃の春をうたっておられる。長野へ通う電車から眺める犀川の流れに柳の芽吹き、残雪の山と安曇平、コブシから杏、桃、そして桜の花―〈やはらかに柳あをめる/北上の岸辺目に見ゆ/泣けとごとくに〉◆松本城公園の桜は7日に開花宣言され、10日の雪で少し足踏みか。これから各地で一気に咲き競いそう。5日前に所用で九州に帰省したら、まだ桜が残っていて菩提寺の大黒が「4月も見られるのは珍しい」と話した。啄木ゆかりの盛岡市や北海道の桜はどうだろう◆妻子を古里に残した啄木は函館の小学校で代用教員を務めた。『一握の砂』の「忘れがたき人人(二)」22首は同僚だった訓導・橘智恵子を思って作った歌だ。〈世の中の明るさのみを吸ふごとき/黒き瞳の/今も目にあり〉◆啄木は明治45年4月13日、家族や友人の若山牧水に見守られ、息を引き取る。26歳。道内の牧場に嫁いだ智恵子の気持ちは分からない。でも全くの片思いだとしたら啄木が後に〈かの時に言ひそびれたる/大切の言葉は今も/胸にのこれど〉と詠むだろうか。

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