連載・特集

2019.2.8みすず野

 「二月、日本海から吹き寄せる風は氷のように冷たい。宍道湖に鈍い光を投げかけて陽が沈んだ。(中略)小泉家の門を出る十数人の影があった│」。中島美澄子さん(安曇野市)の短編小説集『文豪の妻たち』の一編「洋妾と呼ばれて」の冒頭部分である◆中島さんは、洋妾と陰口をたたかれながらも、異人(小泉八雲)の妻となったセツのその理由に迫っている。何より中島さん自身が、それを知りたいと思ったのだろう。小泉八雲の本名はラフカディオ・ハーン。ギリシャ生まれの随筆家、小説家で、明治23(1890)年に来日し、松江に住み、小泉セツと結婚した◆米子、松江、宍道湖、出雲の山陰をいまだ旅したことがなく、退職したら一緒に行こう、と親友と約束しているが、実現の見通しがない。退職すると、生計が成り立たないからである。なぜ山陰かというと、八雲ではないが、そこには古き良き日本が残っている気がするのだ◆長かった勤め人人生に終止符を打ち、一個の人間として、自由にのんびり歩いてみたいと思う。奥出雲は、松本清張の代表作『砂の器』の舞台の一つでもある。いつのことになるのやら。