連載・特集

2019.2.23みすず野

 庭でツバキのつぼみが膨らむ。春を代表する木だから、榎や柊と同様に「木偏に春」と日本で作ったら中国にも椿の字があり、こちらは「双葉より芳し」のセンダンを指すそうだ◆藩の奸物の屋敷の隣で若侍たちが手ぐすね引き、ツバキの花が泉水に流れるのを合図に踏み込む―ご存じ黒沢明監督の映画「椿三十郎」である。昭和のモノクロ作品を脚本そのままにリメークした平成のカラー版では、花の鮮やかな赤が銀幕いっぱいに広がった。山本周五郎の原作小説にツバキは出てこない◆花が丸ごと散り落ちるさまが打ち首を連想させて武家に嫌われた、と言われるようになったのは明治以降とか。ツバキを好んだ薩長閥への江戸っ子の鬱憤晴らしとも、ツバキ人気をやっかんだ花の生産者らが流布させたとも。控えめでりりしい美しさが茶道で珍重される◆高知・足摺岬の花の群がりは壮観だった。300万本とうたう伊豆大島にいつか行ってみたい。「松本」「椿」で検索したら、松本駅西口の焼き肉店と浅間の湯宿、郷土出身作家の椿八郎―くらいしか上位に表示されなかった。春になったら「庭を見に来ませんか」の誘いを待とう。

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